[FP] 継続教育(1月分)(その4)

相続・事業承継設計

相続税の納税猶予制度について

  • 概要

平成20年10月1日以降の相続について、後継者が先代経営者から、経済産業大臣(以下、「大臣」)の認定を受ける非上場会社の株式等を相続または遺贈されその会社を経営していく場合、取得した議決権株式等(相続前から後継者自身が保有する分を含めた発行済完全議決権株式等の総数の3分の2まで)に係る課税価格の80%に対応する相続税の納税が猶予される。

この相続税の納税猶予制度を活用するには、まず原則として相続開始前に会社の計画的事業承継の取り組みについて大臣の「確認」を受ける必要がある。そして、相続発生後には一定要件を満たしているかについて大臣の「認定」を受けなければならない。

  • 認定要件
    • 対象会社要件

認定の対象となる会社は相続開始時に次の要件をすべて満たす企業(「認定承継会社」)である。

    1. 円滑法に規定する中小企業者*1
    2. 非上場会社
    3. 風俗営業会社ではない
    4. 資産保有型会社*2資産運用型会社*3に該当しない*4
    5. 常時使用従業員が1人以上いる
    6. 相続直前の事業年度の総収入金額がゼロを超える
    7. 後継者以外の人が拒否権付株式(黄金株)を有していない
    8. 特別子会社が上場会社、風俗営業会社などに該当しない

    • 先代経営者要件

先代経営者である被相続人の要件は次のとおりである。

    1. 代表者であった、かつ、
    2. 同族関係者と合わせて50%超の議決権を保有し、かつその同族関係者(経営承継相続人を除く)の中で筆頭議決権者である。

    • 後継者要件

この制度の適用を受けられる後継者である相続人等は1人のみで、次の各要件を満たす経営承継相続人等を言う。

    1. 相続開始直前に被相続人の親族*5であった
    2. 相続開始時に特定後継者((会社の新たな代表候補者であり、相続等による株式等の取得が見込まれている者(複数いる場合は会社が定めた1名)))であり、かつ相続開始直前に役員であった
    3. 相続開始日から5ヶ月経過日において代表者である
    4. 相続開始時に同族関係者と合わせて50%超の議決権を保有し、かつその同族関係者の中で筆頭議決権者である。
    5. 相続等により取得した株式を相続税の申告期限まで引き続き保有している。

  • 適用手続き

納税猶予制度の適用を受けるためには、相続税の申告書を提出する際に制度適用を受ける旨を記載したうえで関連書類を添付しなければならない。また、申告期限までに担保の提供を行う。

  • 経営承継期間
    • 事業継続要件

相続申告期限の翌日から5年を経過する日、あるいは後継者の死亡日のうちいずれか早い日を経営承継期間という。この期間中は、次の要件を満たすことで大臣の認定が維持される。

    1. 事業が継続している
    2. 後継者が代表者である。
    3. 雇用(厚生年金保険および健康保険加入者を基準)の8割以上を維持
    4. 相続した納税猶予の対象株式をすべて継続保有している。

経営承継期間中には、毎年1回、大臣(経済産業局)への報告書提出、税務署への届出書提出が義務付けられている。

    • 納税猶予期限の確定/納税猶予の打ち切り

経営承継期間中、特定の事由に該当すると納税猶予期限が確定し、猶予税額の全額とそれに係る利子税を納付する必要がある。
このほか、税務署への届け出を怠った場合にも、納税猶予が打ち切られ、利子税とあわせて全額を納付しなければならない。

    • 納税免除

一方、経営者(後継者)が死亡した場合には猶予されている相続税の納付が免除される。

  • 経営承継期間の経過後

事業継続期間の5年経過後は、後継者が会社の代表者をやめても、雇用の8割を維持できなくなっても、対象株式を保有していれば納税猶予が継続される。

    • 納税猶予期限の確定/納税猶予の打ち切り

該当事由により異なる。なお、経営承継期間を過ぎると、大臣への報告義務はなくなるが、3年ごとに税務署へ届け出る必要がある。
この届け出を怠ると納税猶予は打ち切られる。

    • 納税免除

経営者(後継者の死亡)という事由のほかに

    1. 会社が破産または特別清算した
    2. 対象株式の時価等が猶予税額を下回るなか、事業継続のために同族関係者以外に株式をすべて譲渡した*6
    3. 三者との一定の合併消滅や株式交換等による完全子会社化の場合で、株式等の交付がない
    4. 次期後継者に対し、贈与税の納税猶予制度の適用を受ける贈与を行った

などの場合には、猶予税額の全額または一部が免除される。

*1:業種ごとに規定基準が異なる

*2:総資産に対する特定資産(有価証券、不動産、現金、ゴルフ会員権、絵画など)の合計額の割合が70%以上

*3:総収入に対する特定資産の運用収入等の合計額が75%以上の会社

*4:但し、事務所、店舗、工場等を保有または賃借し、常時使用する従業員が5人以上、被相続人の死亡の日または贈与の日まで3年以上継続して商品販売等の事業実体があるものと解釈され、資産保有型会社資産運用型会社であっても納税猶予の対象会社となる

*5:6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族

*6:この場合、免除されるのは[猶予税額-(時価と対価のいずれか大きい金額)]分のみ